#1 禁断の姉妹

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 奈良のクラス……一年A組では、担当教員の須崎が既にホームルームを始めていた。茶髪を後ろに束ねたポニーテールの女体育教師。そこそこ美人で男子人気も女子人気も高いが、怒らせると怖いと、入学して一、二ヶ月の一年生の間ですら噂されている。

「相川守、池田花、生川翔太、女川悟、金井菜々美……」

 点呼が始まり、生徒たちは名前を呼ばれると返事をしてゆく。すぐに順番は回り、柊奈良が呼ばれると、静寂が訪れた。教師を取り巻く空気が、少しピリつく。
 学生簿からすっと目をあげ、奈良不在の机を見る須崎の瞳は厳しい。カバンだけが机の上に置かれ、その持ち主は居ないのだ。彼女は呆れたようにため息をつくと、ぼそりと文句をこぼした。

「柊……またか。荷物だけ置いて何してる。みんな、何か知ってるか?」

 須藤の質問に答えるものは誰もいない。皆、些細な事を知るのみで、周囲に座る友人とヒソヒソと耳打ちをする程度であった。須藤はざわめき立ったクラスを見渡し、コソコソと喋る1人の学生の前に立った。

「佐藤、お前何か知ってるのか。言ってみろ」

「うぇっ……!」

 声をかけられた女子生徒は、肩を振るわせ、短く改造したスカートから覗かせるムチりとした太ももを組み解く。

「いや……なんか、これたぶんプライベートな話なんで、こんな、晒しあげるような形で話したくないっす」
 
「そうか……それなら良い。本人から聞こう」

 教室の後ろの扉がガラガラと音を立てて開く。クラスの殆どが振り向いた先にいたのは、渦中の柊奈良……と、その姉、柊桜子だった。

「奈良……❤︎……ほら、お姉ちゃんから離れてお席、戻らないとね❤︎」
「うん…………」

 本来、2年の教室にいるべき桜子が、何故か奈良を抱いて現れる。それだけでも、皆を混乱させるには充分であったが、奈良自身も桜子の横乳に顔を埋めるように抱きついており、その異質な雰囲気に誰もが息を呑んだ。
 
「……柊、遅刻だ」
 
 桜子が瞳に鋭い光を宿し須崎を一瞥すると、小脇に抱える妹を撫でながら、甘ったるい声で答える。

「須崎先生……ごめんなさい。可愛い妹が甘えん坊で大変だったんです……❤︎……ねぇ……なぁら……❤︎」
「……そんな……こと……」

 小脇に抱かれた奈良が着る制服は、誰の目から見ても乱れており、スカートの下から覗く膝下が濡れ、法線を顕にしている。髪もどこか怪しく水分を纏っており、皆の想像を掻き立てた。

「……やば……」

 そんな声が、教室のどこかから発せられた。一部の学生が、何かを恐れるようにビクリと縮こまり、固く手を握りしめる。また一部の学生は、その声の発生源を探る様に、滾った目で辺りを見回した。
 
 しかし、桜子は特に気にすることも無く、奈良の頬にキスを落とすと、教室に押し込むように解放した。奈良は名残惜しそうに振り向き、何かを期待する様な瞳で桜子を見上げる。廊下から吹き抜ける風が蒼雪の絹髪を運び、2人を幻想的に飾り立てた。揺れるスカートが巻き上がると、刹那、奈良の濡れた素尻が晒される。

「それじゃあね……奈良。お姉ちゃん、ずっと見てるから」
 
「うん……」

 消えゆく様な声で答える奈良。服の裾を掴み、背筋を丸め縮こまる様に足元を見ている。
 そんな奈良に桜子が耳打ちをした。たった一言、風に溶ける様な声で。

『次の休みも……多目的トイレに来なさい❤︎わかった……?』

 奈良の顔に笑みが溢れる。それが何を意味するのかは、本人しか知り得ない。

「それじゃあ……失礼しました。須崎先生、全部私が悪いので、奈良は怒らないであげて下さいね。」
 
 桜子が優雅に髪をかきあげ、甘い香りを残して教室を去ると教室内に張り詰めた糸がふっと緩んだ。扉の前で立ち尽くす奈良を残して、学生達が思い思いにざわめき始める。

「柊先輩……やっぱエロ……」
「なぁ……やばって言ったやつ誰?」
「奈良ちゃん大丈夫かな……」

 その喧騒を制したのは担任の須崎では無く、1-Aの天才――金井菜々美であった。桜子には劣る巨乳を揺らし立ち上がった彼女は、艶やかな長い黒髪を遅らせ、そっと奈良に近づく。そして、そのまま背後から抱きしめた。自身の胸に奈良の後頭部を埋め、愛おしそうに抱き寄せる。

「奈良ちゃん……大丈夫だった……?」
「ぁ……ぇ……」

 クラス中から冷めた視線が菜々美に寄せられるが、彼女はそれらを気にすること無く、絡めとる様に奈良を撫でまわす。奈良が眉尻を下げ、キョロキョロと上を振り向くと、透き通る様な肌を蒸気させた女が、愉悦で口角を吊り上げていた。